呼吸同期照射法とは、放射線治療の際に患者の呼吸運動を連続的に監視して、一定の呼吸周期の時にのみ放射線が照射されるように制御する方法です。この方法で肺癌の標的範囲を最小限に絞ることができます。肺癌だけでなく、肝癌やその他の腹腔内の癌の治療にも使われています。 スライトの左半分は I 期の肺非小細胞癌にどのくらいの線量を照射すれば癌の局所制御(治癒)が得られるかを、放医研重粒子線治療の経験および図に示された著者のデータを引用して図示しています。I 期といえども肺癌を確実に治癒させるためには80Gy以上の大線量を必要とすることが分ります。このような大線量を照射しようとすれば、照射容積を極限まで減らさないと重大な後遺症が発生します。 スライトの右半分の下方には照射線量と傷害発生との関係を示し、上方には許容できる傷害発生率の範囲内で、どのくらい局所制御率が得られるかを示しています。 呼吸同期照射法を採用すると、傷害発生率を9%まで許容すれば95%の局所制御率が期待されます。呼吸同期照射法を採用しない場合は傷害発生率を17%まで許容しても76%の局所制御率しか期待できません。 以上の説明から分るように、深部臓器の癌の放射線治療はまさに真剣勝負のようにギリギリの条件で行われているのです。従来の放射線治療の成績が挙がらなかったのは、このような精密さがなかったからであります。
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