放射線治療の技術が如何に進歩しても、局所治療であるため、癌の存在場所が分からない時には成果は得られません。外科治療も同様です。局所治療だけでは制御できない癌を全身化学療法で治療しようという努力は、期待と失望を繰り返しながら続けられてきましたが、最近になってようやく見るべき成果を挙げるようになりました。その代表がここに挙げた食道癌でしょう。 食道癌は粘膜下の進展や、広範なリンパ節転移が起こり易く、その広い範囲に放射線治療を照射すると、副作用が強くて治療効果が挙がらなかったのですが、化学療法の併用により、外科的療法に匹敵する治療成績が得られるようになっています。 化学療法もやっと癌の治癒に関与できる段階に来たということでしょう。しかし全身療法である化学療法には副作用も強く現れるために、患者が忌避する傾向も見られます。治癒への関与と副作用によるQOLの損失のバランスをどうするか重い課題を抱えています。副作用が少ない抗がん剤として期待された「分子標的薬」のイレッサによる肺癌患者の死亡が日本癌治療学会の初日に新聞報道されるという、まことに皮肉な結果も見られました。化学療法は今までのの無差別攻撃の時代から、放射線治療のように標的を絞った精密治療に転換する時代を迎えていると私は考えています。
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