2020年 JIRA年頭所感


一般社団法人日本画像医療システム工業会
会長  新延 晶雄

2020年の年頭にあたり謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

 2019年は、新天皇の御即位、令和への改元、ラグビーワールドカップにおける日本チームの活躍など、新たな時代の幕開けと日本の躍進への期待が高まった年でした。一方で台風などの災害にも見舞われ、地球規模での環境問題、国連で合意されたSDGs(持続可能な開発目標)の実現への取り組みなどが急務との認識も深まりました。2020年はこれらも踏まえて、直近の社会課題解決と新たな令和の時代作りに、日本の国民が世界の人々とともに取り組む年になるものと考えます。東京オリンピック・パラリンピックの開催では、日本が新たな時代を歩み出し、伝統・文化に磨きをかけて人に優しい社会を力強く築く姿を、世界に向けて発信する年になるものと、大いに期待しております。

 日本は超高齢社会になり、これまでに産官学や医療関係者の間で、働き方改革や人生100年時代への取り組み、AI、IoT、ビッグデータ、ロボット、5Gなどの技術革新への期待、そしてその課題と論点が共有されてきたと考えます。今後はこれら技術の社会実装に向けて、ステークホルダーによる議論と理解を深め、具体的な政策・施策を策定して着実に実行しなければなりません。
 産業界としても、新たなルール作りや社会システム作りに貢献し、先端技術を研究開発の段階から社会実装の段階へとフェーズを進め、課題解決に資する具体的で新たな価値の提供を、強力かつ速やかに実現しなければならない時と考えております。また世界の医療機器市場規模は、北米、欧州、アジアの順番であり、今後はアジアが最大の成長率であると予測されています。日本の医療機器産業のこれからの成長のためには更なる国際展開が必須となります。

 JIRAは、1967年の発足から53年目を迎えました。一昨年にJIRAの会長に就任して以来、日本の健康・医療や医療機器産業界などの現況、画像医療システム産業の社会的価値、および当工業会の使命を熟考し、今後の将来に向けた工業会の戦略的取り組みが必要であることを改めて痛感しました。その中、昨年4月にJIRA産業ビジョン2025を策定し、公表しました。JIRA内外の関係者からの当工業会に対するご期待を受け、画像医療システム産業が2025年に目指す姿を策定したものであり、今後これを実現するための活動を強化、推進してまいります。
 JIRA産業ビジョン2025で目指す姿は以下の4つです。

  • 社会の変化に先駆けた世界をリードする医療イノベーションを実現する
  • 革新的なデジタル技術の活用により、医療の質向上と医療機器産業拡大に貢献する
  • 日本の優れた医療、医療システムを世界に提供し貢献する
  • 社会・自然環境の変化に 適応したシステムの提供により、安全・安心で安定した医療を実現する

 今年は具体的取り組みを着実に実行していく第一歩となります。

2020年のJIRAの活動に大きく関係する事項として以下が挙げられます。
 第1に「医薬品医療機器等法(薬機法)の改正」です。
 薬機法が2014年に改正された際の附則である「5年後見直し」に沿って、2019年11月に「薬機法の一部を改正する法律案」が国会で可決・成立し、12月に公布されました。今後具体的な運用が検討され、規則や通知等が定められることになります。薬機法改正の概要では、大項目の「医薬品、医療機器等をより安全・迅速・効率的に提供するための開発から市販後までの制度改善」の下に「継続的な改善・改良が行われる医療機器の特性やAI等による技術革新等に適切に対応する医療機器の承認制度の導入」という項目が有ります。以前から述べてきましたように、AIは画像診断支援を始め、ワークフローの改善や、装置の安全管理など、広く医療分野での適用が期待されています。昨年はAI診断支援元年と位置付けましたが、今年は実用化に向けて規制やルールに関する課題を一つ一つ丁寧に議論してクリアーし、医療の現場のニーズに合った製品やサービスを提供して、医療の質や効率の向上に貢献できるよう社会実装に向けた環境整備に注力していきたいと考えます。

 第2に「医療法施行規則の改正による診療用放射線の適正管理」です。
 2019年3月に公布された医療法施行規則の改正により、医療機関における診療用放射線に係る安全管理体制に関 する規定が 2020 年4月1日に施行となり、全身用CT等の管理・記録対象医療機器の線量を記録・管理することが義務化されます。
 既に関連する医療関係の団体や学術大会等でその内容の解説や周知が進んでおり、医療関係者の関心が高まっています。JIRAは2020年4月に開催される2020国際医用画像総合展(ITEM2020)において、昨年に引き続き「診療用放射線の適正管理」を特定テーマとした技術・製品の展示およびプレゼンテーションを企画します。また漏洩X線線量測定士の認定講習会も開始いたしました。これらの活動を通じ、会員企業の更なる低線量化技術の開発や医療現場の負担軽減に寄与するソリューションの提供が促進され、患者の安全管理や最適な放射線診断・治療の選択、および放射線科等の働き方改革などに大きく寄与するものと考えます。 

 第3に「2020年度の診療報酬改定」です。
 医療費増大の抑制など多くの課題を抱える医療行政の中で、2020年度改定では「医療従事者の負担軽減、医師等の働き方改革の推進」などが重点課題として挙げられています。前述のAIなどの革新的技術の社会実装の推進や、診療用放射線の適正管理に向けた製品やシステム、サービスなどの提供はこの視点にマッチするものと考えます。診療報酬改定ではJIRA製品が直接寄与する医療技術の改善改良を含むイノベーションの評価と併せて、患者の安全・安心、医療の質向上や効率化といった取り組みについても継続してその価値を主張し、評価に向けた提案をしてまいります。

 第4に「医療機器規制の国際整合」です。
 世界の医療機器市場の規模は継続的に伸長しています。日本の医療、医療システム、会員企業の国際展開推進には、効率的な医療機器規制対応が可能となるような各国の医療機器規制の整合化が非常に重要になります。国際画像診断・医療IT・放射線治療産業連合会(DITTA)創設メンバーであるJIRAは国際医療機器規制当局フォーラム (IMDRF) にステークホルダーとして参画し、医療機器規制の国際整合化に協力しています。2019年は、JIRAが提案した作業項目である「医療機器規制に用いる国際規格の品質改善」の成果文書が発行され、IMDRFがIEC TC62、ISO TC210のリエゾンとなり、今後の医療機器規制に用いる国際規格の品質が改善されることが期待されます。2020年は、JIRAはアジア太平洋経済協力 (APEC) あるいは日本との二国間交渉の枠組みの中で、IMDRFの成果を積極的に取り入れていく活動に注力してまいります。

 その他、データ利活用、サイバーセキュリティ、標準化など、従来から取り組んできた重要テーマにも更に強化して取り組むことが必要です。各課題を効率的かつ効果的に進めるためにも、個別最適のみに陥らず全体最適を目指す視点で目的・課題の本質を見極めることがポイントと考えます。JIRAの部会・委員会がワンチームとなり、JIRA外の関係される方々ともコミュニケーションと連携を深めて、各課題に真っ直ぐに向かって活動を推進していきたいと考えています。

 画像医療システム産業はX線撮影による画像診断装置から始まり、常に医療現場のニーズと向き合って改良改善を重ね、画像のデジタル化を起点としてCT、MRI、核医学等の診断装置、放射線治療装置などのモダリティや、PACS等のシステムで成長し、関連する製品やサービスとともに発展してきました。ここ数年は、ICT、医療機器プログラム、AIといった技術の広がりに伴って毎年新たな企業に入会いただき、2020年1月1日で204社の会員企業を擁する工業会に成長しています。

 JIRAは今後とも、コンプライアンスを徹底して、部会・委員会を軸に工業会としての活動を推進してまいります。会員企業及び関係各位の更なるご理解・ご協力と、ご指導・ご鞭撻をお願い申し上げますとともに、皆様のご健勝とご多幸を祈念して、新年のご挨拶といたします。